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北欧のエコミュージアム
エコミュージアムとは
1960年代にフランスで生まれた概念で、はじめは家あるいは生活の博物館といった意味をもっていた。
日本エコミュージアム研究会事務局長の大原一興さんによれば「その概念が創生されたときには、スウェーデンのストックホルムにあるスカンセン野外博物館(国内各地から古い建造物を収集復元し、かつての生活を再現している。愛知県にある明治村の手本)に発する生活史復元運動の展示手法をもち、生活全体を包括的に表現する【家の博物館】のアイディアに基づいていたとされる」という(鹿島出版会刊「エコミュージアムへの旅」)。
日本では、エコミュージアムと英語で呼んだり、田園空間博物館と和製の名前をつけて各地につくられつつある。エコミュージアムの中心になる核的存在はコアと呼ばれている。エコミュージアムとして地域内に保存しているものは、サテライトとかアンテナとかサイトとかミリョなどと呼ばれている。
北欧風のエコミュージアム
フランス生まれのエコミュゼは、まずカナダに移入された。しかし隣国のイギリスには、すでにナショナル・トラストがあるなどから受け入れられなかった。ドイツやスイスでもほとんど受け入れられなかったが、デンマーク、スウェーデン、ノルウェーに定着した。
フィンランドにはないが、同様の動きは見える。近年はイタリアで盛んになっている。
北欧に入った、エコミュージアムの概念は風土や社会に合うようにアレンジされて定着した。本家フランスでは乱立(30を超える)、官僚的、経済的自立がむずかしいなどの理由から苦闘しているところも多いが、北欧では水をえたように発展してきている。
スカンセン野外博物館が、各地の建造物をストックホルムに集めたのに対して、エコミュージアムは各地に残るものをそのまま保存して見せている。サイトになるものは、自然遺産、産業遺産、文化遺産など保存する価値があると認められれば、ほとんどのものが含まれる。たとえば、飛行機博物館の次のサイトは、300年前に使われた麦を育てる畑、その次が氷河が削った岩カスが堆積するモレーンといった具合に、バラエティに富んでいる。
北欧のエコミュージアムのほとんどが、農村振興や地域住民や国民のアイデンティティ作りと結びついている。観光と結びついている部分もある。一般公開時期はほとんどが6月から8月の夏休みと休日という北欧型。通年の仕事ではないので、コア施設には数人の専従職員がいるが、サイトはすべてボランティアが管理している。
保存も目的の一つなので、すべてを一般公開しているわけではない。
北欧でエコミュージアムが発展した理由
民主主義が住民に浸透していたこと、権力の分散が定着していたこと(地域の基点になる博物館に権力が集中するのではなく、各サイトが同等の権力を持ち、それぞれが自立できる)、郷土意識が強いこと(スウェーデンでは、国民の5分の1が郷土史愛好会の会員)組織に入るとことを好む性格、古い建造物が都会の野外博物館に集められることへの反発、各地に小さな博物館がたくさんあった、などが挙げられる。加えて年金生活者がボランティアとして参加できたことも理由に挙げられるだろう。多くのサイトがボランティアによって支えられている。少ないところで、多いところは200人ものボランティアをもっている。サイトのガイドはほとんどがボランティアである。年金は年金生活者の生活を守るだけでなく、こうした社会活動を支えることにもなっている。
北欧の社会保障制度は、相互に関連しながら有効に活用されていることになる。
こうした土壌に加えて、各地に優秀で熱心なリーダーが存在していることも忘れてならない。ノルウェーのトーテン・エコミュージアムのイエストルム氏、ロフォーテン・ミュージアムのモーレ氏、デンマークの西ユーラン・エコミュージアムのキム氏、スウェエコーデンのベリスラーゲン・エコミュージアムのハムリン氏、ネドレ・エトラダーレン・エコミュージアムのアレクサンダーション氏などの努力なくしてはここまで発展しなかったと思われる。以下、エコミュージアムの一部を紹介する。
デンマークのエコミュージアム
☆エコミュージアム・サムスー Ekomuseum Samso
シェラン島とユーラン半島の間に浮かぶ小さな島。コアになる博物館、茅葺屋根をもつ商人の家、古いイギリス様式の風車(深井せつ子著、福音館発行「風車がまわった」のモデル)、池のほとりに残る古い町並みなどがサイトになっている。夏は海水浴ができるビーチがあり、デンマーク人のリゾートなので、楽しい時間が持てる。この島は、自立した環境政策をとり、麦わらを燃やしての地域暖房や風力発電、ジャガイモを洗った
水の汚水処理などで、日本の自治体議員旅行に人気がある。サムスー博物館の職員が運営している。
☆ソヒョイランド・エコミュージアム Sohojland Ekomuseum
ユーラン半島東海岸の第2の都会オーフスから西へ30kmほどの一帯に広がる地域。デンマークでは珍しい湖沼地帯で、美しい景色で知られる地域。古いイギリス様式の風車、木靴博物館、うなぎを獲るやな、カトリック時代の僧院遺跡、独特の植生をもつ湿地帯、中世の砦跡などから構成されている。本部はなくボランティアで運営されている。
湿地帯には、美しい森に囲まれた大きな知的障害者施設ソーレンがあり、落ち着いた環境の中で障害者たちが動物や野鳥、植物と触れ合いながら静かな人生を楽しんでいる。
☆ヴェスユーラン・エコミュージアム Vestjulland Ekomuseum
ユーラン半島西海岸の過疎地域一帯。スキーエンの泥炭の中から古代の太陽馬車装飾品(本物は国立博物館で展示)が発掘された場所に博物館を作り、隣接して古代の牛を飼育する農園で古代生活を再現する村を作った。何かを作ってエコミュージアムにするというのは北欧では珍しいが、お金を出費しないとできない日本の行政には嬉しい例だろう。さらに隣接して宿泊研修施設も作り、古い水車や民家を整備してサイトにしている。
周辺の古い農家、漁師小屋、船、オランダ様式の風車などがサイトに登録されている。古代生活村では、古代生活体験滞在ができ、けっこうな人気とのこと。地域の歴史や可能性、環境保護などを学ぶ研修が好評で、次々サイトを買収するなどで規模が拡大しているが、黒字になっている。代表者は40代の民間人で、職員は多く、年金生活者はほとんど関与していない。観光的に学習できるエコミュージアムの成功例かもしれない。
スウェーデンのエコミュージアム
☆クリスチャンスタッド・エコミュージアム Ekomuseum Kristianstad
スウェーデン南東部のクリスチャンスタッド(デンマーク王だったクリスチャン4世が造った町)から南に広がる一帯。このあたりは土地が低く、湿地のようになっていて、野鳥がたくさん舞っている。サイトはこの特性を生かしていて、湿地のある森、バードウオッチングの塔、古い水車などが数多くある。環境保護が感じられるエコミュージアムである。事務所があり、専従職員とボランティアで運営されている。
クリスチャンスタッドは碁盤の目状の美しい町並みを保ち、それでいて駅のすぐ裏には美しい河が流れ、マスやカワカマスなどの魚、カワウソや野鳥がたくさん遊んでいる。
☆ネドレ・エトラダーレン・エコミュージアム Nedre Etradalen Ekomuseum
スウェーデン南西部にあるエトラン川下流沿い一帯。基点としてはHalmstadから北へさかのぼっていくことになる。農村地帯のエコミュージアムという感じで、農園、古代の畑、スウェーデン本来の牛を飼育する農園、農村を描いた画家のアトリエ、農具などを作っている鍛冶屋など数多くのサイトが含まれている。専従職員はいず、サイトの人たちがボランティアで運営している。
☆ファルビグデン・エトラダーレン・エコミュージアム Ekomuseum Fallbyygdenn-Atradalen
スウェーデン南西部の第2の都会イエテボリから東へ100kmほどのエトラン川上流沿い広い地域。夏のみ開く古代体験村に本部があり、専従職員がいる。農村地帯のエコミュージアムだが、麦を挽いた水車小屋、農業博物館、氷河が削ったカスが堆積した地形、飛行機博物館、ヴァイキング時代の墓など多彩なサイトが含まれている。
サイトの数が多いので、車で数日かけないと回れない。南にはネドレ・エトラダーレン・エコミュージアムが続いている。
☆エコミュージアム・ベリスラーゲン Ekomuseum Bergsladen
スウェーデン中部のダーラナ地方にあり、工業遺産を中心としている。世界遺産に登録されたエンゲルスベリ製鉄所の溶鉱炉跡に代表されるように、鉄を中心とした工業遺跡が多い。約50のサイトがあり、広い範囲にある鉱山跡などをすべてを見るには4日くらいかかる。教会、鉄鋼で得た利益で建てられたコンサートホール、鉱山労働者の住宅街、鉄鉱山跡、動力になった水車、溶鉱炉、製鉄工場、鉄鋼製品の積み出し港、倉庫、運河、水門などがサイトに名を連ねている。ストックホルムから車で2時間ほどのKolbackから始まり、北西へNorberg周辺やLudvika 周辺を経てFredriksbergまでの広大な地域をカバーしている。科学に興味がある人にはかなり面白い。
☆ヒュースビリンゲン・エコミュージアム Husbyringen i Dalarna
ダーラナ地方にあるスウェーデン最初のエコミュージアム。1970年に設立された周囲60kmもある文化・自然遊歩ルートで、主に工業遺跡を保存展示している。18世紀に作られた溶鉱炉ロングヒッュッタン、スウェーデンを代表する科学者であるポールヘムの業績を展示する博物館、1860年に建設された板金工場、ダーラナ地方の工業富豪の邸宅跡、16世紀から修道僧たちが鉄や火薬を作っていた僧院などがサイトになっている。
基点になる町はファールンで、この町の銅鉱跡、銅鉱労働者たちの住宅街、ダーラナ博物館などと合わせて見ることをすすめる。ファールンに滞在し、銅鉱跡とダーラナ博物館、労働者住宅街、スウェーデンが誇る画家カール・ラーションの家、ラーション家の教会などを見て1日、さらに郊外を見れば2日必要。銅鉱跡はスウェーデン経済と人々の暮らしを支えたものだが、低劣な労働環境、環境汚染などの負の部分もあり、双方を含めて世界遺産に登録された。
☆グレンスランド・エコミュージアム Ekomuseet Gransland Okomuseet Grenseland
スウェーデンの南西部とノルウェーの南東部の国境地帯にまたがる地域。いまは政治的に別の国になっている地域で、以前の同じ環境にあったときから今に至る歴史をふりかえる。古代遺跡、古い農場の建物や形態、地域の農業史の展示、第二次世界大戦中のナチス軍からの被害、当時の軍服、前世紀の工場などを整備して保存している。専従の職員が2名いる。
ノルウェーのエコミュージアム
☆トーテン・エコミュージアム Toten Okomuseet
オスロの北100kmほどのミューサ湖の南岸一帯を占める。ノルウェーのエコミュージアム活動の基になったところ。牛乳工場があった建物が本部になっていて、専従職員がいる。ユニークなのは、ここの住民の歴史や系図などの情報を収集管理していることで、オスロなどの都会に出た人、あるいはアメリカやデンマークなどに移住していった人の子孫のルーツ探しができるようになっている。他に野外農業博物館、学校跡、兵器工場跡、美術館などがサイトになっている。
☆ロロス・ミュージアム Rorosmuseet
銅鉱跡として世界遺産に指定されている旧市街を含む地域。公害で多くの人が被害を受けた負の遺産として保存されている。廃坑になりいまは博物館になっている鉱山施設と坑道、労働者住宅、薬局跡などがサイトになっている。
☆ロフォーテン・エコミュージアム Lofoten Okomuseet
北海に浮かぶロフォーテン諸島に最近つくられたもの。この島は峻険な地形で知られ、多くの観光客を集めている。中世からタラ漁の中心地で、かつての船小屋や漁具、漁船、運搬船など保存すべき財産がたくさんある。
☆ノール・トロムソ・ミュジウム Nord Troms Museum
ノルウェー北部の大学都市トロムソから東へ、車とフェリーで1時間半ほど行ったあたりから南北に広がる地域。北海沿岸部とフィンランドとの国境地帯に21サイト、90の建物がある。漁業で暮した海サーメが残した船や漁具、漁業で財を成した商家跡、海産物や農作物が取引された市場跡、フィンランドからの移民の農園などがサイトになっている。
☆ソール・ヴァランゲル・ミュジウム Sor Varanger Museum
ノルウェー最北部に近く、ロシア、フィンランドとの国境地帯にある。人口1万弱のヒルケネスとその周辺を含む。かつてはノルウェー人はほとんど住まず、フィンランド人のほうが多かった。鉄鉱石が見つかってからノルウェー人が移住した。フィンランド人の農園跡、移住政策で開拓された農園跡、寄宿舎学校跡、教会、海サーメの集落、コア施設であるグレーセランド博物館などがサイトになっている。







