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スウェーデンの精神保健

過去、現在および将来におけるスウェーデンの精神医療

ストックホルム市庁舎前のメーラレン湖

スウェーデンは、社会民主主義政府により統治される王国であり、人口は900万人面積は450,000平方キロメートル。
その面積のわりに、人口は1平方キロメートル当たり20人と希薄である。国土は北から南へ1,600キロメートルに及ぶ。

スウェーデンの保健と福祉

スウェーデン医療法の冒頭には、地域社会は患者およびその家族との協力のうえ、平等な条件のもとで質の高い医療サービスを提供しなければならないと規定されている。これは、すべての国民のため、および関係するグループケアのために良好な社会を構築するという福祉国家の主要な目的のひとつに沿ったものである。基本的な社会基準十分な日々の食料、衣料、住宅等)は、社会福祉機関が保証する基本的な権利と考えられている。

精神保健政策

スウェーデンの精神医療政策の主な目的は、精神疾患患者が一員となることのできる施設外の地域社会において患者のニーズに応え、高度の自治権と質の高い生活を実現するというものである

精神医療に関する法律

ストックホルム市庁舎前のメーラレン湖

社会サービス法(1980年)は、自治体における社会福祉の責任について規定している。
医療法(1982年)は、医療サービスの提供者が誰であるかを問わず、すべての医療の責任について規定している。
強制精神医療法及び司法精神医療に関する法律(1991年)は、強制医療について規定している。
特定の障害者に対する支援およびサービスに関する法律(1994年)は、長期の疾患による障害者の権利について規定している。
地方財務責任法(1990年および1995年)は、市町村の財源不足のために入院を強いられる患者の治療のために県評議会に支払を行うことを市町村の義務としている。
これらの法律は、住宅、日々の時間の過ごし方、職業、レクリエーション、リハビリテーション、社会の共同体、医療、社会福祉等の重要な生活範囲内において社会の投資が増加していることを示している。精神障害者のための社会福祉プログラムに関する責任は、より明確となった形で、医療プログラムのための社会サービスおよび精神医療組織に割り当てられた。さらには法律により、市町村の社会サービスは、県議会や他の社会機関および組織と協力したうえで障害者の間で訪問活動を行うこと、および支援プログラムを策定することが義務づけられている。精神障害者が受けることのできる多くの支援方法が挙げられており、これにはカウンセリングおよびサポート、個人支援、特別サービス付住居、連絡担当者および同伴者が含まれている。

精神医療改革

ストックホルム市庁舎前のメーラレン湖

1992年の議会の委員会である精神医療委員会は、社会サービスの努力は、その大部分が未だに不適切であり、十分に提供されていないという結論に至った。他の市民グループに比べ、精神疾患患者の状況は標準のレベルを大幅に下回っており、身体障害者の基準と比べても明らかに下回っていると報告された。このため、精神障害を持つ年金生活者のうち3分の2は、休日に旅行に行くこともできないと言っている。これに対し、身体障害者の場合は47パーセント、スウェーデン市民の平均は30パーセントであった。

1995年、社会サービス法に、市町村は身体障害者に対して負う責任と同様の責任を精神障害者に対しても負うという規定が新たに追加された。地方の社会サービスには、十分な住居や意味のある雇用を含め、様々な点について精神疾患患者の需要に応えるという一層重要な責任が課されることとなった。

様々な介護者の責任を法的に明確にしたのは、1995年に施行されたいわゆる精神医療改革の一環として行われたものであった。この改革は、長期の精神疾患に苦しむ個人を主な対象としたものであった。

改革の実行を容易にし、施設内の生活から地域社会での生活への移行を容易に進めるため、県および市町村は、一般的な国の補助金として3年間で12億スウェーデン・クローネ(150,000,000米ドル)の支払を受けた。

改革に従い、社会サービスは、対象グループが施設外での生活ができるようにすることとなった。県議会の組織内での特別な精神医療は、その努力してを、適切な治療方法を確立しなければならない。社会サービスおよび精神医療機関は、対象グループに対する作業において相互に支援し合わなければならない。リハビリテーションの過程に当事者個人および家族が参加することが特に重要視されている。これは、他の市民と同様の条件のもとで精神疾患者が社会へ統合され、最良の生活を享受するためである。

サービス提供者

国家レベルのほか、主に以下の2つの政治および行政レベルがある。

県議会

直接選挙に基づく独自の政治組織を持つ23の県議会は、ほぼすべての医療サービスについて責任を負う。

市町村

288の市町村は、それぞれ独自の政治組織を持ち、県議会と同様に、住居、経済的支援、育児、老人向けの特定の医療等のサービスを住民に提供するため住民から税金を徴収している。
1995年以降は、長期的な疾患の治療の一部についても責任を負っている。入院患者および外来患者の専門的治療は、現在でも県議会の担当となっている。

その他のサービス提供者は以下の通りである

国民保険制度

医療活動のための資金は、国民保険制度からも得られている。国民は、年間で約160米ドルを超える治療費および薬代を支払う必要はない。コストの内、患者が負担する部分のほうが少ない。
年金生活者のうち、40歳未満の精神疾患者の割合は、40歳未満の身体障害者の割合をはるかに上回っている。保険庁が1991年以降、リハビリテーション・プロセスの支援のために県議会に支払った資金は、年間で8千万米ドルである。

国内の労働市場

国家労働市場庁は、国家公務員が運営している。その役割は、雇用の斡旋の提供、援助付き就労の創出、職業訓練の提供および保護的就労の運用である。

今日のスウェーデンでは、当事者・家族団体が強力かつ重要な地位を得ている。このような団体は、この地域内において現在形成されており、国から財政支援を受けている。最も重要な当事者組織(RSMH:訳注、社会精神保健協会)は10,000人、家族の組織(R-IFS)は5,000人の会員を擁している。スウェーデン教会およびその他の宗教団体が果たす役割は、他の任意団体と比べて小さい。

国家厚生委員会の役割

国家厚生委員会は、社会サービスの統括、評価および監督、ヘルスケア、デンタルケア、歯科衛生、環境衛生および伝染病の管理を担当するスウェーデンの政府機関である。
同委員会の役割のひとつが、健康社会保険法に基づき県議会および市町村に指針を与えることである。さらに同委員会は、状況がどのように発展しているのかについて、さらに必要であれば、新たな法制度が必要とされていることについて政府に報告しなければならない。
同委員会は正式な認可権限を持つわけではないが、すべての県議会は、精神疾患の治療に関して委員会が策定した基本方針を採用している。

精神疾患に関する歴史上の重要な出来事

1850年までは、精神疾患の治療においては、保護施設が重要な役割を果たしていた。「精神異常者」という見方では、宗教が重要な役割を果たしていた。
1850年から1900年にかけては、科学的見方が優勢となり、精神疾患院が初めて建設された。
1900年から1950年にかけては、精神医学が身体的特徴の研究みを開始し、より重要な生物学的根拠を得て、精神保健ケアは拡大した。
1967年には精神疾患院に対する責任が国から県議会へと移行した。
1970年代には、国家厚生委員会が地方分散化、脱施設化、外来患者の治療の発展、協働および患者とその家族の影響の増大といった戦略を打ち立て、その大部分が実行された(Westrin、1991年)。

サービスの地方分散化

サービスの地方分散化、即ち地理的に区分された特定の地域(人工3万から12万人)におけるすべての精神医療サービスの統合は、必要とする患者がさらにサービスそ利用しやすくなるために導入された(Hansson、1995年)専門化されたサービスのうち一部の下位サービスが複数の地域によって共同で運営されているため、現在では地方分散化の一部は崩壊している。さらにこの改革により、県議会によるサービスの責任と市町村によるサービスの責任とが分裂する結果となった。

脱施設化

今日ではほとんどの隔離精神疾患棟が閉鎖され、一般病院内の精神科で入院患者の治療が行われるようになり、これを補足するものとしてナーシングホームやハーフウェイハウスが設けられた。入院患者の治療は減少した。1962年において住民1,000人に対する精神科のベッド数は4.6であったのに対し、1997年にはわずか0.75であった。
このような結果となったのは、痴呆症患者を老人病棟に移したためでもあるが、精神分裂病患者の入院率が大幅に減少したことも要因となっている。改革にも関わらず、多くの患者は未だに施設にいる。唯一の変化は、治療の責任が現在市町村に移行しているという点である。

外来患者向けサービス

地域社会内、即ち普通の住宅地またはヘルスセンターと併設された集合住宅での外来患者向けサービスは、発展してきた。年間で2〜3百万人が同サービスを利用している。このような拡大が実現したのは、おそらく患者の治療にすべての種類のスタッフが参加することによりチームワークが発展したためである。最近発表された論文(Sandlund、1998年)においては、人材を外来患者用施設に再配置するだけでは、地域社会に根ざしたサービスを確立するのに十分ではないという結論に至っている。他の介護組織の間だけでなく、組織内の介護者の間でも統合および協力を一層重視して行く必要がある。

協働

プライマリーケアを行う専門的精神医療サービスと地方サービスとの間の協力は未だに十分ではない。保護的な生活や職業のための資源の開発は遅れている。構造レベルと文化レベルの双方の利害の軋轢が主な障害となっている。さらに、地域によっても大きな格差がある。組織間の協力機能は、大都市や小さな自治体よりは中規模の市町村の方が効率が良い。福祉サービスに対して精神医療とはどのようなものと考えられるのかという点について、改革を通じてそれぞれの役割が明確になったとしても、明確さに欠ける分野が未だに残っている。特にこれは、社会サービスと外来患者用精神医療組織の双方からの同時支援を大いに必要とする人のための協働について言えることである。

患者とその家族からの影響の増大

関係団体は、介護者として家族と友人を支援する新たな作業方法を開発している。関係団体は、権力を拡大し、多くの人々にサービスを提供するため、社会サービスと精神科サービスの双方との間で密接かつ現実的レベルでの協力を開始している。

専門的精神医療の現状

精神医療改革を評価する政府の委員会のほか、国家厚生委員会は、専門的精神医療の内容および質を総括する委員会を設立した。1997年、同議会は議会に対して以下の結論を報告した(国家委員会、1997年)。

人々の態度

社会での精神疾患の地位は未だに低い。強い偏見のあった時代からは大幅に改善したものの、患者を取り巻く人々の不寛容や見識の無さにより、精神疾患による影響を受ける人々にとって厳しい結果となっている。

異なる見方の統一

精神医学における様々な異なる見解は、バラバラに領域ごとの論争を行い、未だに活動が未熟であるというイメージを作ってきた。しかし精神医学は、次第にこのような段階を乗り越えることができるようになってきている。

知識の増加

精神疾患に関する知識が増加し、診断が改善し、利用しやすく、差別化され、証拠に基づき、かつ効率的な治療ができるようになっており、このような治療は選択された基準をもとに評価することができる。

脱施設化

入院患者の治療の大半は、患者の本来の環境において患者を治療することを重視する外来患者の治療に移行した。しかし、こうした作業は、例えば社会サービスとして、他の介護者の十分な協力と相互の支援を得ずに行われているケースが多い。

障壁

積極的発展にも関わらず、多くの精神疾患患者は、必要とするケアを受けるのに未だに困難を感じている。精神医学に関する知識の格差が未だに存在していることも障壁の原因となっており、その結果、研究が成功しているのにも関わらず、精神疾患の治療が制限されてしまっている。しかし、こうした障壁には、精神医学や精神疾患に対する社会全体の考え方、ケアを受ける機会が十分にないこと、継続および協力が欠如していることも含まれるはずであり、その結果、患者に関する全体的な見通しにギャップが生じている。

このような欠陥には、患者、家族およびその他の関係者が、提供されるケアに合理的範囲で影響を与えにくいという点も含まれる。1947年に始まり、現在も進められているLundbyの縦断的研究によって重要な情報が得られたにも関わらず、集団における精神疾患の疫学に関する知識も十分ではない(Hagnell、1990年)。身体的疾患に比べ、精神的な不健康、障害および疾患の分布や経過についての知識ははるかに少ない。一方で、施設での強制治療の適用に関する統計情報は非常に多い。
ケアの資源、方法、利用の仕方は、地域によって異なる。これは、病気の罹患率(訳注、特定期間内にある集団内で発生するある状態の新症例数)の違いによって証明される差違よりもはるかに大きいと考えるべきである。

このような違いは、地理的および社会的事情によって部分的に説明がつくが、ケアが異なる方法によって発展してきた結果でもある。即ち、集団における精神疾患の発生率および精神疾患のケアに割り当てられる人材についての疫学的調査を行うことが重要である。

今日の精神医学に対する重要な反論には、専門家の不足と差別化されたケア資源の不足もある。
入院患者のケアの大半は未だに一般病棟で行われている。これが意味するのは、一部の患者にとっては、ケアが必要以上の負担となり、患者の人格にまで踏み込み、恐怖心を持たせるようなものになってしまっているということである。

精神保健サービスの組織

人口統計学的な違いにより、包括的ケアやサービスの選択も異なる。他の多くの西側諸国と同様に、脱施設化の進行と同じスピードで外来患者のケアを発展させることはできていない。

ほとんどのIP(identified patient,患者とされた人)は治療を受けている。患者の住居での地域社会の社会福祉からだけでなく、精神保健外来患者向け治療およびPrimary Health Care(プライマリーケア?)によっても支援が提供されている。改革より3年後の評価から得られたデータによると、昼間に何らかの活動を提供し、孤立するのを防ぐための対応は、提供を受けるべき人の半分にまでしか行き渡っていない。学校での教育や雇用についても同様である(国家委員会、1998年)。精神病患者、特に長期に渡って病気にである患者に対して、適切な診療と最適な支援を社会が提供するのは、現在でも非常に難しい。精神病患者の大半は、精神医療の専門家による診療を受けていない。これは恐らく、プライマリーヘルスケアにおいてこのような多くの患者が診療されているためである(Munk- Jorgenssen、1997年)。スウェーデン国内のある診療圏におけるすべての長期の精神病患者の分析に関する報告によれば(Borga、1993 年)、このうち20パーセントが精神医療サービスを利用していなかった。

最近の調査により、精神疾患患者の自殺率は、一般住民の自殺率と比較して6から24倍と、はるかに上回っていることが判明した(Ringback、 1998年)。ここで明らかになったのは、精神疾患患者がケア組織のどこで現れたとしても、患者の身元を確認することが重要であるということである。

プライマリーヘルスケア

精神障害は、薬物の濫用とともに、公衆衛生上最も重要な問題のひとつである。精神医療は、治療に対する住民の需要に対応するようにできていない。中度および軽度の精神疾患の大半が、プライマリーヘルスケアにおいて診療されている。プライマリーヘルスケアを受ける患者のうち、20パーセントが精神疾患である。このうちほとんどが、専門的な精神医療を経験していない。

プライマリーヘルスケアは、すべての医療について責任を負う第一線のものであるが、精神科の患者に関しては非常に隠された場所で治療が行われている。プライマリーヘルスケアと専門的精神科治療の間の協力は十分に発展していない。患者について精神科医から問い合わせがあることはほとんどいない。

専門的精神科医療

医療地域は6つあり、各々に大学病院がある。県議会レベルでは、入院患者の診察が可能な病院が最低でも1か所ある。
各県議会は、地理的に制限された7つのセクターに分割され、それぞれが住民の専門的治療を担当する。各セクターには、外来施設、外来病院、診療所、リハビリテーション施設、訪問チーム等の様々な種類の外来サービスがあるサービスを差別化するため、複数のセクターが、例えば摂食障害、薬物濫用および司法精神医療のための専門施設の運営を共同で行うことができる。
患者は一般に、最初にプライマリーケアを受けることなく、専門的な精神科治療を直接自由に受けることができる。

コスト

専門的精神科治療の直接コストは、年間で15億米ドルで、このうち75パーセントが入院患者の診療費用である。
当該予算の15パーセントは、いわゆる精神医療改革の実施を受けて、1995年に市町村に移行された。

入院患者の治療

資源の大幅な減少によって生じた結果のひとつとして、優先的に入院できるのは最も治療を必要とする重症の患者であるため、残りのベッドでの治療負担は増加した。
住民100,000人あたりの入院患者数は、1994年から1997年にかけて30パーセント減少した。
1994年の92人に対し、1997年は64人であった。こうした患者の治療に関する責任が地域社会に移転した際、多くの患者は移動させられることなく、改革前の場所に留まった。唯一の違いは、県議会でなく地域社会によって治療費が支払われるという点である。

国家委員会は、3年に一度、入院患者の治療について1日調査を行っている。1997年において、入院期間が1年を超えていたのは入院患者の22パーセントであった。一部の地域では、50パーセントもの患者が、1年を超えて入院している。
入院期間が1年を超える患者数は二分の一強に減ったが、その主な原因は改革である。1994は27パーセントが65歳以上であったのに対し、1997にはわずか19パーセントが65歳以上であった。これは、恐らく1994年から1997年にかけて、入院期間を短縮し、高齢の患者数を減らす改革が行われたためであろう。
入院患者のうち17パーセントは、18歳未満の子供であった。

1994年から1997年にかけてベッド数を大幅に削減したのにも関わらず、診断名別の割合には大きな変化がなかった。長期的な精神分裂病患者がコミュニティケアに移行したにも関わらず、精神分裂病患者の数は他の診断名と比べ、未だに非常に多い。
入院患者のうち18パーセントには、何らかの形での濫用がある。精神医療において、この問題は一層深刻となっている。濫用は犯罪行為を伴う場合があるため治療の状況はさらに複雑である。

入院患者の治療に関する調査

入院治療の範囲は、縮小が続いている。精神医療改革は、地域社会サービスと、患者の本来の環境における支援を作り上げ、精神医療が直面してきた資源の減少に対応してきた。

外来患者の治療

最近数十年におけるスウェーデンの精神医療政策の主な傾向は、精神病院から地域社会をベースとした環境での治療への移行である(Saarento、 1998年)。このような環境は、病院に近接した施設か、プライマリーケアとの密接な関係において実現される。50パーセントを超える医療区には訪問チームが設置されており、これは、県議会と民間機関の双方によって運営されるケースもある。
外来患者向けサービスの利用は、国内の地域により異なる。24時間体制のサービスは非常に少ない。夕方、夜間および休日に治療が必要になった場合、患者は最も近くの病院内にある一次治療施設または救急部門に送られる。

専門的外来患者治療に関する調査

1997年のある日において専門的外来治療の受診に訪れた人数は13,232人と報告された。訪問の総数は、1987年の調査からは増加しておらず、目立って多い1991年の調査と比べるとはるかに少なかった。これは、以前は精神疾患院の入院患者として診療されてきた患者が今日では外来患者となったため、現在の外来患者の診療の量が増加したためであろう。訪問が以前より増えたことは患者の滞宅に寄与したわけであり、これは積極的な発展であるが、その一方で、外来治療ユニットへの訪問と比べ、より多くの資源を必要とする治療方法でもある。他の介護者との協力とは、診察、監督および他の形式の協力を意味するものであり、その結果患者のために費やす時間は減少する。別の見方をすれば、経済的な理由による入院治療の減少に相応するほどには、未だ外来診療が増加したわけではないということになる。患者の大半は、女性と若者である。65歳以上の患者は10パーセントを占めるに過ぎず、これは、総人口に対する高齢の年金生活者の相対数がこれをはるかに上回ることを考えると、予測を大幅に下回る数字である。
この理由のひとつとして、専門的外来患者の治療ではなく他の介護者によって需要が満たされているという点が挙げられる。

このように拡大した外来患者の治療は、当初は主に軽度の精神疾患、危機状況への反応等の患者が利用していた(Stefansson、1990年)が、重度および長期的な精神疾患患者の割合も徐々に増加している。1991年の全国調査と比較し、診断名の概要には大きな変化はなかった。
20年前、ほぼすべての外来患者の訪問は医師が実施していた。1997年には、すべての訪問のうち医師が責任を負うのはわずか約17パーセントで、22 パーセントは臨床心理士およびソーシャル・ワーカーが、29パーセントは看護婦が実施している。看護婦および看護婦補助者は、比較的多数の訪問を受けもつ。このような訪問では、異なる方法の支援とケア、即ち社会生活の能力の訓練が行われる。看護婦の訪問の多くは、薬と注射薬の配布に関するものである。「その他」のグループでは、作業療法士がほぼ半分、理学療法士がおよそ5分の1を担当している。

訪問のうち69パーセントが未だに外来治療ユニットで行われており、これに対して家庭訪問はわずか11パーセントである。精神分裂病およびその他の精神病の患者は、訪問全体のうち32パーセントを占める。このグループでは、家庭訪問の方が多く、デイホスピタルへの訪問は、他の診断名のグループも含めた患者全体の平均より多い。1987年の調査に比べ、デイホスピタルへの訪問数は半数となり、その一方で家庭訪問は一定の増加を見せている。

緊急の訪問によって専門的精神科医療機関にかかる負担は少ない。夕方、夜間および休日の緊急訪問のうち3件に1件は、患者の自宅への訪問である。1日の調査中に対応した患者のうちわずか9パーセントについて、年間3回以内の訪問が予定されているのに対し、42パーセントが年間で30回以上の訪問を必要としていると考えられる。
患者の多くが長く利用していることがわかる。1日の調査において、精神科を数回受診する患者に対応する可能性の方が、たまにしか受診しない患者に対応する可能性よりも高い。

人材

専門的精神科治療において採用されるすべての人材は、1997年に登録されている(常勤と見込まれる者)。

改革前には精神科のスタッフが行っていた社会的サポートの多くは、今日では地域社会に委ねられている。
精神科医以外の精神科のスタッフは、現在市町村が採用している。
精神科医の数は未だに不十分であり、一部の地域では採用が非常に難しい。専門家が不足した結果、研修中の精神科医が、スウェーデン国内のほぼ半数の病院で、夜間および休日にひとりで勤務にあたっている。危機22が起きると(A moment 22 is arising、訳注、moment 22と呼ばれる触法ないしは措置事例のようなものがおきるとという意味か?)、残りの医師にかかる負担は非常に重い。暴力や恐喝は日常の精神医療活動において珍しいことではなく、その結果、ここで働く者にはプレッシャーがかかる。政治家からの非現実的な期待や、患者とその家族が問題をより困難にしており、スタッフが燃え尽き症候群になるというのが現実である。精神科医以外の職種のスタッフ数は、ほぼ十分であるように思える。

研修

精神科医は、まず医師としての基礎的な研修を約5年間受ける。その後は内科医として一般的な研修を2年半、そして精神科医としての研修を4年から5年間受ける。その後は、例えば老年精神医学や司法精神医学を、第2の専門分野とすることができ、これにはさらに2年から3年の研修が必要となる。
看護婦は、基礎的研修を3年間、専門的精神医学の研修を1年間受ける。

社会サービス

精神医療改革の結果、市町村の約85パーセント(全人口の93パーセントに相当)が、地域内に住む精神障害者を確認し、彼らがどのような社会支援を必要としているのかを明らかにするための調査を実施した。この調査の前は、活動とその目的を計画するための情報が不足していた。
この結果得られた情報により、改革の対象グループが43,000人から46,000人いることが明らかとなった。これは、スウェーデン国内の成人全体の0.5パーセントに相当する。

男女の割合はほぼ同じで、半数が45歳未満である。5人にひとりは結婚または同棲しており、10人にひとりは子供と暮らしている。支援プログラム、特に職業、日々の時間の過ごし方、社会との接触、レクリエーションといった分野での支援に対するニーズが非常に高いことが調査によって明らかになった。支援に対するニーズは、男女によって異なる。女性は、男性と比べて社会生活の能力が高い。精神障害を持った高齢者の間の精神および身体の障害の分布についての知識はほとんどない。しかし、多くの高齢者は社会サービスおよび精神医療組織に接触しており、その一方で、若者の方が障害が重く、彼らの社会サービスおよび精神医療組織との関係を改善する必要性がある。移民についても同じことが言える。また、市町村の規模も重要である。特に精神障害者のための支援プログラムを実施するのは、大都市の方が他の地域社会より困難である。

住居

精神障害者全体のうちおよそ70パーセントが自宅で生活している。残りは家族とともに、または市町村の特別住居や施設で暮らしている。自宅で支援を提供するプログラムは、さらに開発が必要である。

地域社会内の長期的精神障害者は、立ち退きを要求されるリスクが高い。調査により、入院患者向けの精神医療施設で治療を受けた人は、治療を受けていない人と比べて11倍のリスクを負うことが明らかになった。
立ち退きは、精神を重度に病的にする物質の濫用者(25倍のリスク)に比べ、分裂病患者にはそれほど広がっていない(4倍のリスク)。

社会のネットワーク

対象のうち60パーセントは、家族および自宅外の友人との間で定期的に社会と接触している。
接触の機会は、女性より男性、若者より老人の方が少ない。

日々の時間の過ごし方

就労または保護的就労をしている人は、20パーセント未満である。15パーセントは就業可能であるが、就職機会が
ないために雇用されていない。残りは全く仕事をしておらず、その多くは精神障害のため就業能力がない。

複雑なグループのためのサービス

物質濫用の治療

このグループは、プライマリーケア、専門の精神科医および民間機関が分担して対応している。
担当範囲が明確に決められていないため、時には最悪な症状の患者が治療を受けていないという状況になる場合もある。当グループの治療プログラムを評価するため、国の補助金が支給されている。

司法精神医療

6つの地方司法病院が、司法精神治療を受けるべきであるとの判決を受けた者のうちで最も危険度の高い患者(司法精神疾患者の約3分の1を占める)の治療にあたる。残りの3分の1は県レベルの病院(複数のセクターが共同で治療にあたる)で、3分の1は一般病院で治療されている。

ホームレス

市町村は、地域社会に住む住民の住居について責任を負う。市町村は、ホームレスのために保護住居の形態による住居およびその他の居住施設を提供する。県議会は、彼らのヘルスケアについて責任を負う。最近では、訪問チームがホームレスのための訪問活動を開始し、医療サービス、食料、清掃・洗濯設備を、移動しながら提供している。
1996年のストックホルムでの調査の報告によれば、ホームレスと物質濫用との間には密接な関係がある。この点は、以前は十分には考慮されてなかった。広範囲にわたる社会的および医学的ハンディキャップを負い、医療および社会サービスによる十分な支援を得ることが困難となっているホームレスは非常に多い。ホームレスの数は、1993年から1996年にかけて増加しなかったが(3000人)、女性の割合は増加した。

システムに組み入れられた刺激策と阻害要因

刺激策

給与、賞与、利益のような特別な刺激策はない。法律およびその他の規則を遵守しなければならない。遵守しない場合、行政および法的措置が取られる。これは、反対の刺激策である。
国から県および市町村に定期的に資金が支給される。県議会間の協力を進め、精神医療改革の実施を促進するため、118百万ドルが、「ケース・マネジャー」の機能の発展のために3百万ドル、家族支援のために6百万ドル、二つの診断を合併している患者のために6百万ドルが、国の助成金として支払われた。

阻害要因

上記の行政上の罰則とは別に、組織および法律上の阻害要因がシステム内に築かれている。異なる活動組織の間の責任分担は、多くの場合、未だに明確ではない。また、専門家による精神医療の様々な部門を担当する個別の組織がある。これは、児童・思春期精神医学と一般精神医学について言えることで、その結果、協力が一層難しくなり、治療の継続が不要に中断されることになってしまう。また、司法精神医学は別の組織である。支援およびサービスに関する法律に基づく権利を、精神障害者は行使できていない。同法の目的は、障害者自らが支援を求めるというものである。この方法は、精神障害者にとって現実的な方法ではない。これは、主導的に行動する、当局に接触する、届出を行うというような能力が、精神障害者個人には十分でないことから明らかであるからである。即ち、ほとんどの場合、彼らは支援の提供を求めることができるようになるために、密接な個人的で質の良い助けを必要としている。こうした評価から明らかなように、精神障害者に適した法案を起草するべきである。

責任

リハビリテーション・プログラムに関する国、市町村および県議会の間の責任分担は、未だに不明瞭である。社会復帰のためのリハビリテーション、精神医学的リハビリテーションおよび労働市場に復帰するためのリハビリテーションは、すべて別々の機関が管轄している。このことから明らかなように、このグループのためのリハビリテーション・プログラム全体を単独で管理する機関はない。リハビリテーション・プログラムは、非常に曖昧であることが多い。多くの場合、問題はリハビリテーションではなく、むしろ、支援は生涯に渡り、かつ復帰することを目的として行わなければならないということである。通常、最も迅速な解決が必要と思われる問題は、意味のある日々の時間の過ごし方が不足しているという点である。

将来

今日の精神医療において未だ解決されていない問題を改善するため、以下の措置を検討する必要がある。

1.患者とその家族のためにより高い地位を

人間的価値の尊厳の要求、特に健全である権利と自己決定の権利への要求は、精神医療において注目すべき問題である。強制的な施設内治療は、常に注意深く監視する必要がある。十分な情報提供を受けたうえで、患者とその家族が治療に参加することによって利用者の影響力が拡大するということは、重要な発展である。自分自身の治療に参加し、その正当性と価値を理解することのできる患者からは、より良い治療結果が得られる。このため、患者および家族は、精神疾患に関する精神医療の可能性と限界について十分な情報の提供を受けるべきである。

患者と家族の影響は、治療の計画および実行への積極的な参加を通じて拡大させる必要がある。個人および可能であればその家族と相談したうえで、特別な文書として作成された個人治療計画は、提供される治療の目的を明確にするためのひとつの方法である。治療計画は、患者の生活全般に渡る状況を包括するために、他の同僚の計画と統合すべきである。

家族支援プログラムのため、幅広い努力が可能であろう。しかし、このようなプログラムは、家族教育だけでなくさらに幅広いアプローチを取らなければならない。精神疾患患者の子供のために、よりいっそうの努力を重ねることが非常に重要である。

県レベルの患者・家族委員会は、患者の地位を向上させるためのひとつの方法である。これは、精神疾患とその治療について一般に知られるようにし、精神疾患以外の深刻な病気に苦しむ他の人々に対すると同様の尊厳と配慮とともに、精神疾患患者が治療を受けられるようにするための新しく包括的な努力の中心となることができる。国の教育および情報プログラムは、精神疾患に対する一般の人々の考え方に影響を与えることができる。

2.治療におけるスタッフの能力を発展させるための幅広く、根気強い努力

入院治療から外来治療への移行によって、より高い能力が要求されるようになった結果、スタッフのための本格的な教育が必要となっている。
支援活動に対する目標が一層明確になり、いっそう明確な測定および評価が可能となった結果、リーダーシップの発展が必要になった。リーダーシップ教育は、精神疾患の治療におけるすべての部門のスタッフに対して行うべきである。優れたリーダーシップは、メンバーの職種の問題というよりはむしろ、個人の能力の問題である。

3.より良い協働と協調

有効な治療網を築くには協働が不可欠である。これは、共通の考え方、共通の言語、個人としての患者の治療に対する共通の目標、および共通した分析および評価方法に基づくものでなければならない。長期に精神疾患にかかっている人は、その身体の症状を確認するため、プライマリーヘルスケアと定期的に接触すること、および歯の衛生状態をチェックするため歯科医の治療を定期的に受けることが必要である。

まずは長期的精神疾患におけるニーズ、さらには他の精神疾患患者のニーズを計画、展望および分析するために市町村と協働するためには、一定の手続の確立が必要である。

若者の精神疾患のために、その病気の初期段階において協働を強化して行くことは最も重要である。協働の方法は、学校、社会サービス、児童思春期精神医学との間で進展させて行かなければならない。精神疾患治療のうち、特に急いで協働する必要のある特定の分野のために、国家としての方針を打ち出す必要がある。国家の指針を発展させるにあたっては、様々な症状を治療するため、校長や専門家と相談し、精神疾患の治療活動に関する幅広い見方を利用する必要がある。

4.精神科治療組織の発展

近代化を継続して行くための重要なステップのひとつに、治療に対する具体的かつ測定可能な目標を立てることが挙げられる。このため、治療を記録、測定および評価するための、一層優れた手段を発見する必要がある。最近20〜30年において知識が増加した結果、診察と治療計画の双方において生物学的、心理学的および社会的側面の統合が必要となった。これは、有効性が証明された治療のみを提供するためである。様々な精神障害の原因に関する知識と精神疾患の疫学に関する知識との中には未だに大きなギャップがある。
治療は差別化する必要がある。慢性的な患者と新しい患者を一緒に大きな一般病棟に入れてしまうというような状況は回避すべきである。

5.生活の質の向上

何を普通のものとして受け入れるかについて、世間の考え方が広がり、その考え方に新たな意味を与えない限り、社会への精神疾患患者の受け入れは、今後も遅いままだろう。精神疾患の治療は、社会の他の組織との接点を拡大し、社会における精神疾患患者の受け入れの拡大に貢献するために公開された議論に参加すべきである。患者の生活は、収入のために働き、住むための家を得て、社会生活に参加し、病気を補い緩和させるための質の高いサポートにより、生きるに値するものにならなければならない。

<以上の概要はスウェーデン政府社会保健庁のメディカル・アドバイザーHelena Silfverhielm, MD, が1998年10月29日に書かれたもので、東京都立多摩総合精神保健福祉センターの近藤智恵子先生と伊勢田堯先生が仮訳されました。当社のツアーの資料として参加者に配布したものです。>

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