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旅行体験レポート ~旅から学んだこと~

フィンランドの小学校

フィンランドの小学校を視察して

実施:2005年8月
スウェーデン・フィンランド教育福祉視察旅行(淡島幼稚園英語教諭 上道 由紀子様) 

私たちが視察に訪れたKeskuskouluという小学校は、フィンランドで2番目に古い都市、ポルヴォーにありました。ヘルシンキから車で1時間余りのその都市には、旧市街と新市街があって、日本で言えば金沢のような趣があります。
約束の9時より少し前に到着した私たちは、ちらほら登校してくる子供たちと一緒に門をくぐりました。校舎の玄関を入ると、校長先生が自らお出迎え下さいました。先生は、口髭をたくわえ、背の高いがっちりとした体格で、飾らない温かい感じのする方でした。私たちは、最初に全体のことについて校長先生にうかがってから、リクエストしていた体育と英語の授業を見学し、最後に食堂で給食をいただきました。
いろいろな意味で発見の多い視察でした。日本とはずいぶん違うと感じる点もあれば、意外に日本に近いんだなあ、と思うところもありました。これらのことを、視察の順を追って書いていきたいと思います。

1. 校舎

訪れたときはちょうど改修工事中で、授業は、改修がすんだ部屋とプレハブを使って行われていました。町並みを保存するためでしょうか、外壁を残して内部だけを直すらしく、建て直しよりかえって手間も予算もかかるそうです。冷暖房完備のプレハブは、オーストリアの会社からのレンタルだそうで、「これも安くないんです。」と、校長先生は苦笑していらっしゃいました。

私たちが最初に通されたのは、改修が済んだ部分の、やがて図書館になるという仮の職員室でした。最終的に職員室がどのような姿になるのかはわかりませんが、少なくともこの仮の職員室は、ガラス張りで風通しがよく、事務的な香りが全くしませんでした。部屋の端から端でも普通の声で話せるくらいの広さです。もちろん、棚や机の上にはファイルやテキストが置かれていますが、さっぱりと片付いていて、丸いテーブルやソファがあるなど、気軽に膝を交えて話し合えるラウンジのような雰囲気でした。

2. 全体について

ここでは、職員室で校長先生からうかがった学校全体のお話を、クラス編成、授業時間、教育目標、先生、家庭、の6つの項目に分けて書いていきたいと思います。

1) クラス編成

学校には、約500人の生徒と50人の先生がいるそうです。普通学級は、各学年3クラスで6学年の計18クラス。加えて、ことばの遅れている生徒のためのクラスが、1年、2年に1クラスずつ、知的障害のある生徒のための特別クラスが、1年から3年に1クラス、4年から6年に1クラスあるそうです。

フィンランドには就学前学校というものがあり、小学校に上がる前の1年間、保育園や小学校に設置された教室で就学の準備をします。これは、義務教育ではないので、全ての子供が通うわけではありません。この教育を受けておらず、ことばに関してやや遅れをとった子供も進学してくるので、そういった子供をバックアップするために、この学校では低学年だけ専門のクラスを設けているそうです。

またこの国では、身体的障害を持った子供は、“障害児”とは呼ばれず、普通学級に入れられるそうです。もちろん、必要に応じて身体的にサポートしてくれる人がいる等、バックアップの体制は整っています。ですから、知的障害児の特別クラスに入るのは、IQテストで基準点を下回った生徒のみだということでした。 非常にクリアで合理的な編成だと感じました。

2) 授業時間

1年生は、1週間に45分×21時間
6年生になると、1週間に45分×27時間 の授業を受け、
先生は、1週間に45分×24時間 の授業を受け持つのが通常だそうです。

私たちが驚かされたのは、学期ごとにスケジュールを組み立てる際、先生の個人的な事情が考慮されるということでした。基本的に学校は8時から始まりますが、たとえば、自分の子供が家を出てから出勤したい、とか、早く起きられない、といったことがあれば、9時を開始時間にすることもできるというのです。あるクラスのスケジュールを見せてもらうと、月曜は9時から2時、火曜は8時から2時。水曜は10時から1時、木曜は9時から3時。金曜は8時から2時となっていました。私たちが学校に到着したとき、9時近くだというのに登校している子供を見かけたのは、そのせいだったのです。
この柔軟性は、日本ではおそらく考えられないことでしょう。しかし、皆が気持ちよく学校で過ごし、よりよい授業をしていくために、自然になされていることのようなのです。“人”や“生活”というものを機械的にとらえていないフィンランド人の本質を見たように思いました。

3) 教育目標

校長先生からお話をうかがっていて、ポイントとなると思われた言葉が二つありました。
ひとつは、“学校は勉強の仕方を教えるところです。”という言葉です。情報は日々変わっていきます。そういった情報を詰め込むことに意味はありません。大切なのは、どのようにそれらの情報を入手し、考え、まとめていくかという方法を学ぶことなのです。私は、こういうことを大学に入って初めて学んだように思うのですが、それを初等教育からはっきりと目標として掲げているからこそ、フィンランドが、学力水準で他を圧倒する国となり得るのだろう、と改めて感じました。

もうひとつは、“授業について行かれない子供をひとりもつくらないようにしています。”という言葉です。フィンランドが学力1位であることについて、どのようにお考えかとたずねると、「生徒たちのことを思って一生懸命取り組んできただけで、他の国と比べてどうなのか、といったことは考えたことがありません。むしろ、『もう十分だろう』と国が判断して、経費を削減しようとしたりしないか、心配です。」と、おっしゃいました。校長先生ならではの、こんな思いがけないお返事に、思わず笑ってしまいました。そして、具体的に取り組んできたことは、とにかく授業から取り残されるような生徒がひとりも出ないようにすることだそうです。

日本では近頃、学力によってクラスを分けるような試みもなされていますが、逆にフィンランドでは、皆が同じように公立の学校で学び、クラス分けも平等です。サポートしたり協力し合いながら学ぶことで、全体の水準が上がるだけでなく、トップクラスの子供たちの成績さえ、フィンランドが日本を上回っているということは、心に留めておく必要があるでしょう。

4) 先生

フィンランドでは、先生が、生徒たちやその父兄から大変尊敬されています。ただし、それは、単によい授業をしてくれるから、といういうだけでなく、自分たちのことをよく理解してくれているから、という想いも含まれているように思うのです。だからこそ、フィンランドの子供たちの半数以上が、「将来なりたい職業は?」と聞かれて、「先生!」と答えるのではないでしょうか。

このことは、先生方と廊下を歩いていた時にも感じとることができました。すれ違う子供たちは、先生にきちんとあいさつしていきますし、校長先生が、「元気?」、「弟の具合はどう?」などと尋ねると、くつろいだ表情で、でもしっかりと返答します。それは、信頼できる親しい人に会ったときの温かいあいさつなのです。校長先生は、生徒たちの名前を全ては覚えていないとおっしゃっていましたが、顔は全部頭に入っていて、少なくとも街で見かけたら、自分の学校の生徒かどうかはすぐにわかるそうです。
こうした信頼関係が、楽しい学校生活、充実した授業を生み出すのでしょう。

また、先生のことについては、ひとつ興味深い話をうかがいました。フィンランドでは、小学1年生の担当になる先生は、教員免許以外に、大学で特別な課程を修了した専門家でないとなることができないということです。最初が肝心であるし、非常に難しいからなのですが、国でこのように定められている、ということに驚かされました。日本も見習っていいことだと思います。

5) 家庭

家庭の理解は教育に不可欠である、と校長先生はおっしゃいました。
この学校では、親・子・先生の三者面談の機会を頻繁に設けるそうです。そこでは、その生徒が何をどれくらい理解しているかを確認し、どうしていったらいいか、が話し合われます。面談の頻度は、それぞれの先生に委ねられているらしいのですが、少なくとも、学期に一度、子供が成績表を持ち帰ったときに、両親が愕然とするようなことはない、とおっしゃっていました。学習を補う必要があるとこの面談で判断された場合、家の人が協力して勉強を見る、学校で補講をする、アシスタントをつける、など臨機応変に対応していくそうです。
皆でサポートしていこう、という柔軟でしっかりした体制が整っていると感じました。また、学校では、補講は珍しいものでも恥ずかしいものでもないそうです。子供たちがネガティブに捉えないのは、自分も一緒に考えて選んだ策だからなのでしょう。
ちなみに成績表は、“自己評価”と“先生の評価”から成っていて、1年生から3年生の“先生の評価”は選択肢とことばで、4年生から6年生は数字で表現されるそうです。

3. クラス見学

1) 体育

私たちが見学したのは、小学3年生の女子8人の授業です。
案内されたのは、プレハブ校舎のすぐ裏手に広がるグラウンドでした。電光掲示板のようなものもあり、サッカーのコートが2面以上とれそうな、広い広い人工芝の立派なグラウンドです。となりの中学校と共有しているそうで、確かにこの時も、一方の端で中学生が体育の授業をしていました。毎年10月になると、何と、ここがスケートリンクに早変わりするそうです。生徒たちはスケートが大好きで、冬はよくスケートをして遊ぶ、とおっしゃっていました。

フィンランドの子供たちも、歩く量が以前より少なくなったことや食生活の変化がわざわいして、体型も変わり、運動能力が低下しているということでした。体育の授業は週3時間で、3年生までは“基礎”、4年生から6年生は“応用”、中学生から“専門”を修得していくそうです。
この日はスポーツ大会に備えて、玉投げの練習をしていました。3年生の女子は、スポーツ大会で、60m走、幅跳び、玉投げをするそうです。

授業では、最初、輪になって談笑しながら10分ほどストレッチをしていました。“体操着”というものはないので、各自が用意したスパッツやTシャツに着替えています。
次は、アップ。ラインの上に横並びに並んで、20mほどダッシュをします。最初はホイッスルに合わせて、ただ走るだけでしたが、次第にスタート時の姿勢を変え、後ろに座ったり横になったりしてから走っていました。最後は、正しい合図でのみスタートする、というような遊びをしていました。単純な運動も、ゲーム感覚を取り入れると一気に楽しさが増します。

そして、いよいよ玉投げです。最初は一列に並んで、思い思いに投げていました。次に、先生が美しいフォームでお手本を見せます。その後、どうしたらお手本に近づけるか各自研究しながら投げていました。正直言って、玉の投げ方など、学校の授業できちんと習った記憶のない私には、とても新鮮な光景でした。が、スポーツ・サイエンスがご専門の一緒に視察にいらした大学の先生は、日本でも今、こういう基礎的なことをしっかり教えるのが普通だとおっしゃっていました。
教えられている内容は、日本と意外に変わらないようです。

2) 英語

6年生の教室に案内されました。生徒は20人ほどです。私たちが校長先生と部屋に入ったためでしょうか、皆が一斉に立ち上がり、大きな声であいさつしてくれました。室内の様子はほぼ日本と同じで、黒板を背に立つ先生に向かって、生徒の机が縦に6列並んでいます。どこに着席するかは、生徒たちで決めるそうです。私たちも後ろの空いた席に座りました。
英語の授業は、小学3年生から始まります。そして、4年生から、何と第2外国語も習うのだそうです。第2外国語はドイツ語、フランス語、スウェーデン語などの中から選択するということでした。彼らはたしかに、それらの言語にも小さい頃から親しんでいるのでしょう。ホテルでテレビをつけると、噂に聞いたとおり、おもしろそうなフランス語や英語のアニメが、吹き替えも字幕もなく放送されていました。それにしても、“第2外国語”には、驚きました。

さて、授業が始まります。内容は、簡単にまとめると以下のようになります。

こうして実際に授業を見てみると、一斉に前を向いてCDを聞いたりするあたり、日本の中学校の授業とそれほど変わらないような印象を受けました。もっとも、私たちが視察に訪れたのは、新学年が始まって間もない時期だったので、その後、アクティブな授業が展開されているかもしれません。

また、フィンランドでは宿題がない、というのは私の勝手な思い込みで、この学校でも宿題があり、きちんと皆やってきていました。
特に日本と違っていると思われた点は、全員が全く問題なく内容をこなしていたということと、アシスタントの先生がいらしたことでしょう。アシスタントの先生は、ある生徒の横に座っておられました。その生徒は、内容はよく理解しているけれども落ち着きのないタイプの生徒で、しばしばアシスタントの先生に注意を受けていました。こういう細かなケアが、スムーズな授業を可能にし、全員の理解へと繋がるのでしょう。英語の先生は、最初から最後までずっと英語で話していらっしゃいましたが、その指示も、皆きちんと理解していました。また、答え合わせでも、ほとんどの生徒が手を挙げていました。

4. 給食

食堂は、ちょうど大学のカフェテラスのような感じでした。並べられたその日のメニューから好きなものを自分のお皿に乗せて席に着きます。おかわりは自由です。
私たちが行ったときは、ほぼ満席状態。皆、楽しそうにおしゃべりしながら食べていました。私たちが紙ナプキンを取りに行くと、そのそばに座っていた高学年の男の子たちが、数枚取って渡してくれました。見知らぬ人にも当たり前に親切にしてくれます。
この日のメニューは、パン、カレー味のスープ、トマトソースのペンネ、ミルク、果物でした。果物も、オレンジ、リンゴ、プラム、など数種類がたくさん用意されています。スープもペンネも果物もおいしくて、つい私もおかわりしてしまいました。正直、旅行中に食べたどのレストランよりもおいしかったです。

校長先生も一緒に召し上がったのですが、ご自分の給食を取って席に着かれるとき、後ろを振り返りながら、少年グループに二言三言話しかけていました。私たちに紙ナプキンをとってくれた生徒たちです。その後、私たちの方を向いてから小声で、“あの子たちは、学校一の問題児で、私の部屋にしょっちゅう連れてこられるから、よく知っているんですよ。”と、笑いながらおっしゃいました。私たちがすぐさま、紙ナプキンのことを話しますと、先生は、ただ微笑んでいらっしゃいました。ちょっと斜に構えて座っている当たり、確かに問題児的風格がなきにしもあらずでしたが、ちょっとわんぱくがすぎるだけの健康的な生徒たちなのです。お仕事で校長先生が退席された後でさえ、私たちのそばを通るとき、“ヘイヘイ(さよなら)”とあいさつしていきました。

5. まとめ

視察をして、一番印象に残っているのは、生徒たちの無邪気で楽しそうな表情です。家族、先生、社会に愛され、安心して毎日を過ごしている様子が見て取れました。
学力向上を目指す日本で、授業の内容や手法の見直しが必要とされるのはもちろんですが、もっと大切なのは、先生だけでなく家族や社会が意識を改め、皆が協力して、子供たちの学びやすい環境をつくっていくことではないかと思うのです。
これは、一朝一夕になせるような容易なことではないでしょう。でも、こうした環境で育まれてこそ、自分で考え、認め合い、自分の選択に責任をとっていくという意識が子供たちに生まれ、学力向上や社会の活性化へ自ずと繋がっていくのではないでしょうか。

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